今日もなんとか労働を終えた。帰り道、郵便物を投函し、コンビニで金をおろし、セルフのガソリンスタンドで車にガソリンを入れ、電器屋へ向かった。
一昨日くらいからスマートフォンの充電器がおかしいので、買い直そうと思った。
店員さんに話し掛けられるのが怖いからなるべく素早く手に取る。
手に取ったそれが自分のスマートフォンに対応している充電器か調べたいが、スマートフォンは鞄のなかにあった。店員さんとかに見える場所で鞄のなかをまさぐったらきっと怪しまれてしまうだろう。
死角を求めてさまよう。
薄暗く奥まった人の居ない場所を見付け、ようやく鞄からスマートフォンを取り出した。
充電器の箱には対応機種が羅列されている。私のスマフォは載っていないけど「対応機種(2015年10月現在)」と書いてある。スマフォを買ったのは確か2016年……。仮に対応していたとしてこの箱には載っていない。どっちなんだ。たぶん大丈夫だけど。一応調べたほうが良いんだろうか。逡巡していると、眼鏡をかけた恰幅の良い、40歳前後くらいの男性店員さんが小走りで寄ってきた。タンバリン芸のお笑い芸人の人にちょっと似ている。たぶん店長であろう。「何かお調べすることがあるか」というようなことを言われた。
誰からも話し掛けられぬよう死角に行ったけれど、逆に怪しい人物と化してしまった。店員さんが小走りだったから(もしかしてアタイは怪しまれてしもうたんか?)と不安に陥る。監視カメラとかで見ていたのかもしれないし、充電器を吟味しているときから怪しかったのかもしれないし、別に怪しんでおらずただ単に店内をくまなく巡回するタイプの店員さんなのかもしれない。
「アッ……こちらなんですけども……」と、スマフォと充電器を見せる。店員さんは私のスマフォを手に取り「たぶん大丈夫であろう」というようなことを言い、「他に何かお探しのものはございますか」的なことを言ってきた。店員さんと私は軽くあたりを見回す。
私が居たのは『男性用ひげそり器』のコーナーであった。
私が「アッ……大丈夫です……」と言うと、店員さんは去った。まさかテキトーに探した「死角」が『男性用ひげそり器』だとはな……。私の顔の産毛はさすがにそこまで強力ではない。なぜか『男性用ひげそり器』のコーナーでスマフォの充電器について調べようとする女と、なぜか『男性用ひげそり器』のコーナーでスマフォの充電器について答える店員という謎の構図が発生してしまった。
向かったレジにさっきの店員さんが寄ってきて「念のため確認させてほしい」と充電器の見本らしきものに私のスマフォをぶっさした。無事ぶっささる。
さっきの一瞬で私の持っていた充電器の機種を覚えちまったっていうのかい……?
やるじゃねえか……(なぜか上から目線)。
死角を求めてさまよおうがさまようまいが基本的に電器屋とか服屋って話し掛けられるもんだよな……。
いつか、店員さんに話し掛けられることを恐れずに買い物できると良いな……。
ひげそり器のコーナーじゃなくて充電器のコーナーでやりとりしていたらもうちょっとスムーズだっただろうな……。
申し訳なかったな……。
とりあえず充電器が買えて良かった。